[東京 20日 ロイター] 日銀が15日の決定会合で示した景気認識に対し、専門家の間で疑問の声が相次いでいる。新興国経済の一段の高成長を理由に今年度成長率を上方修正する一方で、米国経済の新たなリスクへの指摘がなく、足元の世界経済について楽観的すぎるとの見方が広がっている。
政治的混乱から日銀への緩和圧力が強まる可能性もあり、円高・株安が一層進行するもとで追加緩和の意思なしとの姿勢を強調しすぎることがかえって自らを厳しい立場に追い込むとの指摘もある。
<世界経済の新たなリスクに言及せず>世界経済の減速懸念が強まるなか、円高・株安が進行している。そうした状況下で先週の日銀決定会合で示された景気認識について「一部欧州諸国の財政・金融状況をめぐる動きに言及しているだけで、世界的下ブレ傾向に触れていない」(JPモルガン証券・チーフエコノミスト・菅野雅明氏)など、楽観的すぎるとの指摘が相次いでいる。
実際、先週発表された日銀の成長率見通しは、4月の「展望リポート」の見通しと比べて10年度成長率が大きく上ぶれた。背景には前年度の成長率のゲタが大きくなったことがあると見られていたが、日銀は上方修正の要因として「新興国の一段の高成長」をあげた。中国経済はやや減速傾向にあるが、白川総裁は「様々な可能性があるので注意深くみているところ」と述べ、減速の影響には触れなかった。さらに白川総裁は米国の一部指標が市場予測を下回ったことについて「米国経済の弱さ自体は、既に比較的織り込んでいるが、いずれにせよ、改めて景気回復の弱さを市場が認識するようになったということ」と述べるにとどめた。
しかし、米国や中国、さらに国内の経済指標はこのところさえない動きばかりが目立つ。足元の景気認識としては「世界景気の下ぶれリスクは、欧米個人消費と中国固定資産投資の同時減速であるが、その可能性は高まってきている」(クレディ・スイス証券・チーフエコノミスト・白川浩道氏)といった意見が主流となっている。
そうした中で「海外景気が減速する中で日本経済だけが順調に回復する、というシナリオは描き難い。日本の鉱工業生産は、海外とくにアジア地域の鉱工業生産との相関をむしろ強めているので、アジアの鉱工業生産増加ペースが減速すれば日本への影響は必至」(菅野氏)とみられ、政府でも景気の先行きについて「踊り場入りするリスクも出てきた」(津村啓介・内閣府政務官)との認識が浮上している。
<慎重論にくみしない姿勢、かえって緩和圧力生む可能性>日銀も2011年度の成長率見通しはわずかに下方修正し、先行きには慎重な姿勢を示している。ただ、市場関係者は白川総裁の会見などを聞いて強気姿勢を感じとった。「日銀のスタンスがどちらかというと容易に慎重論には傾かない強気の印象を受ける。うがった見方をすれば、潜在的な金融緩和圧力を意識して予防線を張り、金融政策批判に付け入る隙を与えたくないという意図なのかもしれない」(第一生命経済研究所・主席エコノミスト・熊野英生氏)という見方も出ている。
日銀が追加緩和に否定的とのメッセージを送っていると解釈されれば、「円高・株安や、政府からの反発を招き、結局は日銀が追加金融緩和を実施せざるを得なくなる。まさに自分で自分の首を締める行為」(野村証券金融経済研究所・チーフエコノミスト・木内登英氏)との指摘も浮上。追い込まれて実施する金融緩和はインパクトが小さく経済効果も小さくなりがちであり、そうした事態にもなりかねないとみられている。
市場の動きについても白川総裁は「円高や株安による影響はあり得るものの、先行きのわが国経済は回復傾向をたどると考えている」と強気姿勢を崩さなかった。マーケット関係者からは「FRBがフォワードルッキングなスタンスで、早々に先行きの不透明感に懸念を示しているのに対し、日銀は足元の回復のみを確認している。中央銀行のスタンスの違いも、ドル安/円高進行を助長、株安を誘発しているのではないか」(大和住銀投信投資顧問 上席参事 小川耕一氏)との指摘も相次いだ。
参議院選の結果を受け、財政政策の身動きがとれそうにないなか、景気回復に黄色信号が灯れば、金融政策へのしわ寄せは大きくなる。日銀も経済政策の停滞に目をつぶるわけにいかない状況に追い込まれる可能性が高まっている。
(ロイター日本語ニュース 中川泉記者;編集 石田仁志)
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