<回復軌道に乗り始めたオーストラリア経済>
オーストラリア連邦準備銀行(RBA)は、10月6日に政策金利を0.25%ポイント引き上げたのに続き、11月3日にさらに0.25%ポイント引き上げ、3.50%にすると発表した。10月の金利引き上げは2008年3月以来、19カ月ぶりであり、同年9月のリーマン・ブラザーズ破たん後に世界的な金融危機が始まって以来、先進国では初めての利上げとなった。
オーストラリアでは、2009年第1、第2・四半期の実質GDP(国内総生産)成長率が2期連続でプラスとなったことや、8月の小売売上高が市場予測の2倍近い伸びを示した点、9月の失業率が当初見通しを大幅に下回ったことなどから景気回復の認識が高まっている。
11月の金利引き上げに際し、RBAのスチーブンス総裁は「深刻な経済低迷リスクは既になくなった」とコメント。これに先立ち11月2日にスワン財務相は、中間経済・財政見通しの中で、今年度の経済成長予測を予算案発表時のマイナス0.5%からプラス1.5%に上方修正した。国際通貨基金(IMF)の10月29日発表の地域経済見通しでも、インド、中国およびオーストラリアの経済は、急速に回復しているとの認識が示されている。先進国の中で、いち早くオーストラリア経済が回復軌道に乗り始めた理由は何なのか。3つの観点から考えてみたい。
<豊富な天然資源と中国需要>
そもそも金融危機以前、オーストラリアは17年連続の景気拡大を続けてきた。この間、実質GDPは年平均3%を上回るベースで拡大し、国民1人当たりGDPは約2倍となった。景気拡大を支えてきたのは、石炭、鉄鉱石、石油、ボーキサイトなどの豊富な天然資源である。特に金融危機直前には、資源ブームによる価格高騰や急速な経済成長を遂げる中国の資源需要増加により、資源輸出は価格、数量共に大幅に伸びていた。
この堅調な経済に対し、金融危機の与えた影響は一過性で、早期の回復に至ったという見方もある。今後も、中国を中心としたアジア諸国の資源需要がオーストラリア経済に大きな影響を与えることは間違いないが、特に中国経済は力強い回復を見せており、オーストラリア経済もこの恩恵を受けて、引き続き好調に推移することが期待される。
<金融危機への迅速な対応>
第2点は、ラッド政権による金融危機対応への高い評価だ。その柱となったのが財政支出と金利引き下げである。
財政支出では、個人への給付金、住宅取得支援、各種インフラ整備、中小企業の設備投資への減税といった景気刺激策が早い段階で発表された。このうち給付金は、前年のクリスマス前に支給が実施されたことで、クリスマスの消費拡大につながり、迅速な対応が即効的な効果を産み、景気回復につながったとの評価を受けている。もちろん、この思い切った景気刺激策は、前述の景気拡大に伴う財政基盤の充実があったからこそできたものである。
一方、政策金利は金融危機直前には7.25%であったが、2008年9月以降の6回のRBA理事会で利下げを決め、2009年4月の理事会では3.00%まで引き下げられていた。金融危機以前の半分以下の水準になったとはいえ、元々の金利率が高かったことで、引き下げられる余地が大きく、さらに相対的に高いレートを底として据え置く事が可能だったことも、他の先進国と比べてマクロ政策上のフリーハンドの幅が大きかったと言えよう。
<オーストラリア人の国民性>
3つ目に、暮らしの中で筆者が肌で感じる部分として、オーストラリア人の国民性を挙げたい。細かい事にとらわれないおおらかな気質、人々がよく口にするオーストラリア英語の「No worries(気にするな)」の精神が、景気回復に影響を与えたと思えてならないのである。
日本人は、景気が悪い、あるいは景気の先行きに対する不安があると、財布のひもを固くし、節約を心がけ、貯蓄を増やそうとする傾向があり、その結果、必然的に消費が低迷して景気はさらに悪くなっていくという悪循環が生じる。
これに対し、周囲のオーストラリア人の生活が金融危機以前と何か変わったかと考えると、あまり変化を感じない。例えば金融危機後も、昼食時になれば、高級レストランはワインのボトルを空けながら、相変わらずのんびりとランチを楽しむオージーたちであふれていた。知人たちが長期の休暇を取って、アメリカやヨーロッパ、あるいは日本へと旅行に出掛けて行くひん度も、全く減ったように感じられなかった。
実際、昨年末に実施された国内新聞の調査では、当時、景気悪化が顕著になった状況にあったにもかかわらず、回答者の半数以上が、その後の国内経済を楽観視しており、全体の7割が消費パターンを変えるつもりはないと回答している。
また、こうした楽観的な国民性のためか、当地の人たちは、借金を気にせず、とにかく持ち家を保有しようとする傾向があるようだ。オーストラリアは、世界でも有数の持ち家率の高い国であり、この比率は過去40年間安定して7割程度だと言われている。最近の調査によると、持ち家所有者のうちの3分の2以上が、ローンで住宅を購入している。
このような状況下では、当然、7.25%から3.00%への政策金利引下げがローン債務者にとって大きな金利負担軽減をもたらし、可処分所得の増加を生じさせるので、非常に有効な景気刺激策であったことは言うまでもない。
<金利上昇の影響>
2009年9月までの政策金利3.00%は、実に49年ぶりという歴史的な低水準であり、3.50%に引き上げられた現在でも、依然として相当に低いレベルの金利であることに変わりはない。
RBAは、インフレを適正な水準に維持することを目的として、金利を次第に通常の設定に戻すべきとしており、先物市場では2010年11月までに5%程度に引き上げられるとの見方が強い。
この金利上昇が、ローン金利負担の上昇などにより国民の消費マインドを変えていき、少なからず景気回復に影響を与えるのか、あるいは相変わらずの「No worries」の気質により、国民の生活パターンは特に変わらず、大きく消費が落ち込む事もないのか。今後の動向を、興味深く見守っていきたい。
双日豪州会社 経理マネジャー 唐原 研
(11日 シドニー)
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<略歴>唐原 研(とうはら・けん) 1991年3月に立教大学経済学部卒業。同年4月、日商岩井(現双日)入社。インドネシア駐在、在豪食品会社勤務を経て07年9月より現職。
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